ティーンズ

発達障害のあるお子様向け キャリアデザイン教育
MENU

【発達障害×映画館】バリアフリーからユニバーサルへ/多様性に富む人たちが自由に芸術文化に触れられる映画館/CINEMA Chupki TABATA/東京・田端

2022年3月7日

音声ガイド(※)や字幕ガイド付き上映を行う映画館「CINEMA Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)」(以下、チュプキ)。
日本初の常設のユニバーサルシアターとして2016年に開館しました。「全ての人と映画の感動をわかちあえる」をコンセプトに、館内設備を整備、誰もが映画を楽しめる環境を整えています。感覚過敏の人が鑑賞できる個室をはじめ、発達障害*の人向けの上映回をつくるなど、「バリアフリー」から「ユニバーサル」へー。視覚障害者の映画鑑賞から始まった活動の広がりを代表の平塚千穂子さんに伺いました。

※音声ガイド:目が見えない方や見えにくい方に向けて、場面や動き、表情の解説をするための補助ツール。チュプキでは座席にイヤホンジャックを設置し、イヤホン(貸出用もあり)を差し込んで利用できる。左右の音量をそれぞれ調節できる。

始まりは視覚障害者の映画鑑賞

映画館設立は、2001年より目の不自由な方々と共に映画鑑賞の環境づくりを行ってきた「バリアフリー映画鑑賞推進団体City Lights(以下、シティ・ライツ)」での活動からつながっています。

企画した鑑賞会では「当初は映画館でボランティアが耳元で内容を伝えるスタイル。そこから、歌舞伎の舞台を参考に、一人が実況したものをFM電波に乗せてイヤホンを通して届ける形になりました。活動の反響は大きく、1度の上映会で200人を集めることもありました」(平塚さん)。

大手映画会社も徐々に音声ガイドや字幕の環境を整備。アプリでも利用できるようになりましたが、メジャー作品が中心でミニシアター系やドキュメンタリーなどの対応は遅れる状況がありました。鑑賞会や映画祭を開催し、「映画に期待して、求めている方が想像以上にいることを肌で感じてきました」(平塚さん)と語るように、「日常的に映画を楽しめる環境を」「社会から取り残された人たちとの差を埋める」と、シティ・ライツが主体となりクラウドファンディングで資金を集め、16年9月にチュプキを開館することになりました。

音声ガイド、字幕、親子鑑賞室、フレンドリー上映

完成した映画館は全20席で約60㎡と、目の行き届く広さで温かな雰囲気を創出。大型のシネコンとは違った落ち着いた空間で、様々な人が楽しめる設備やサービスが整えられています。

館内の様子。各座席に音声ガイド用のイヤホンジャックを設置している

視覚障害のある方にとって何より大切な「音」。音響監督の岩浪美和氏の協力のもと、劇場の前面、側面、後面、天井にスピーカーを配置し、豊かな森にいるように優しく包まれる音の環境を創りました。鑑賞にはいつでもイヤホンを使った音声ガイドを利用でき、上映作品はすべて字幕付きです。

「映画館を作るにあたって、誰もが映画を楽しめる空間にすることに力を注ぎました。その結果、障壁をなくすバリアフリーから、すべての人にというユニバーサルにシフトしていきました」(平塚さん)と振り返る通り、ハード面とソフト面それぞれにチュプキの目指す形が見えてきます。

劇場後部には完全防音で照明の調節も可能な親子鑑賞室を配置。当初は親子の利用を想定していましたが、感覚過敏の発達障害のお子さんが安心して映画を見ることができる場所にもなっています。

完全防音、照明の調整も可能な親子鑑賞室。ベビーカーが入るスペースも

また、「フレンドリー上映」を設定。これは発達障害の人に向けて、周囲を気にせずに映画を見てもらおうと、音響を抑えて場内の照明を残した上映回のことです。上映中に声を出すことや入退場も自由となっています。

「小さな映画館なので、細かいところにも気を配りやすい。様々な理由で映画館に行きたいけど行けなかった人たちが、鑑賞後に映画について話している姿がとても嬉しい」(平塚さん)。できることは何でもするという精神ー。最寄り駅からの誘導サービスや文字通訳、振動で音を感じられる抱っこスピーカーの貸出、車いすスペースの確保など、文字通り「誰一人排除しない」環境があります。

また、視覚障害のある方向けにつくられた音声ガイドは、使ってこなかった人にとっても発見があるといいます。映像や台詞では分からなかったストーリーの背景や伏線などに、音声ガイドを通して気づくことがあります。一つの鑑賞法として楽しまれる方もおり、新たな表現を楽しむ鑑賞法としても紹介しています。

今年は同館制作のドキュメンタリー映画も公開予定

ここ2年、新型コロナウイルスの影響で、緊急事態宣言を受けた休業や人数制限など、経営面でも様々な対応に追われましたが、寄付やサポーター会員の登録など、全国からの支援の輪が後押ししています。新しい企画、取り組みにも挑戦しています。昨夏には発達障害のあるお子さんたちが企画した上映会イベントも開催。映画を鑑賞するだけでなく、イベントを作り上げる体験を提供しました。

そして今年は、チュプキ制作の映画「こころの通訳者たち」の公開を控えています。チュプキに持ち込まれた相談、「舞台手話通訳に挑んだ人たちの映像記録を、目の見えない人たちにも伝えられないか」。音声ガイドに長年携わってきたチュプキがどのように向き合っていくのか。聴こえない人、見えない人に演劇を届ける人たちのドキュメンタリー映画です。

平塚さんは、「私が目指すところは、支援する・されるの関係ではなく、面白い映画を伝え合ったり、それぞれの視点で語り合ったりする仲間や友達のような関係だと考えています。ここは多様性に富む人たちが自由に芸術文化に触れられる場所。これからも映画という素晴らしい体験を届けていきたいです」。

###

映画は1ヶ月単位で作品を決定している。3月は「きこえなかったあの日」や「二重のまち / 交代地のうたを編む」「ジョゼと虎と魚たち」など計11作品を公開しています。

CINEMA Chupki TABATA
住所:東京都北区東田端2-8-4(JR田端駅北口から徒歩5分)
TEL&FAX 03-6240-8480 水曜定休

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

ページトップへ