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【発達障害×フォント】/読みやすいで社会に貢献/フォント「UDデジタル教科書体」/株式会社モリサワ

2021年11月9日

近年、「発達障害」に関する話題をあちこちで聞くようになりました。教育・福祉業界からの発信はもちろんですが、行政や企業、団体などからの理解や社会的責任など、社会全体での受容の広がりがみられています。

「SDGs」「ダイバーシティ」をはじめ、教育界では法制化による「合理的配慮」の推進など、発達障害のある人にとって過ごしやすい社会に向け、取り巻く環境が少しずつ変化してきています。

そんな誰もが過ごしやすい社会環境を生み出す企業や団体、人、モノなどを「発達障害×★★★」と題して、不定期でご紹介します。

第1回は、身の回りにあふれる「フォント(書体)」にフォーカス。弱視(ロービジョン)や読み書きに困難さを抱えるお子さんをはじめ、より多くの方にとって見やすく読みやすいフォントを目指すフォントメーカー・モリサワさんの「UDデジタル教科書体」を取り上げます。企画・デザインを担当した同社、営業企画部 公共ビジネス課の高田裕美さんにお話を伺いました。

写真は制作時の高田さんのメモ

UDデジタル教科書体とは

TEENSの放課後支援の現場でも、読むことに難しさを感じているお子さんがいらっしゃいます。そんなお子さんの助けになるのがUDフォントです。

UDフォントとは、年齢や能力、性別、国籍などにかかわらず、できるだけ多くの人が使いやすいように製品や建物・環境をデザインする「ユニバーサルデザイン(UD)」と「フォント」が合わさった言葉。15年前に、お年寄り向けに読みやすい表示文字をつくろうと、家電メーカーとフォントメーカーが作成したのがはじまりで、今ではUDフォントを扱うメーカーはたくさんあります。UDデジタル教科書体もUDフォントの一つです。

ーUDデジタル教科書体の特長は

高田)「UDデジタル教科書体」は、子どもたちのために読みやすく、学習用にも配慮した書体として、教育関係者や現場の声をもとに作られたものです。特長の一つは、筆書きではなく、硬筆やサインペンを意識した手の動きを重視していること。もう一つは、書き方の方向や点、はらいの形状を保ったり、太さの強弱を抑えたりして、弱視やディスレクシア(読み書き障害)の方に配慮したデザインであることです。

他のUDフォントと大きく異なるのは、教育機関でのヒアリングや大学と連携したエビデンスをもとに制作した教科書体であることです。

ーUDデジタル教科書体をつくるきっかけは

高田)UDフォントの広がりを受けて、当時は、UDゴシックやUD丸ゴシックを制作していました。ただ、作りながら「社会的なワードであるユニバーサルデザインに対応した書体を自分たちの経験や工夫だけで作っていいのかな」という考えが頭の中にずっとあり、ロービジョン研究や弱視教育の支援をしていた慶應義塾大学の中野泰志先生にお話を伺うことにしました。
 
中野先生からは「まず、当事者の方が何に困っているかを知ってください」と、弱視のお子さんたちがどうやって文字を勉強しているかを知るために、特別支援学校を見学させてもらい、教科書に顔を近づけて懸命に勉強している姿を目の当たりにしました。また、ボランティアの方々が拡大教科書(※)を作っている場所にも伺いました。大きな文字で弱視のお子さんにとって読みやすい書体に変えたり、イラストに文字が重なっているところを外して分かりやすく表示したり、一文字一文字丁寧に書いたりと、手作業で作っていたんです。まさに職人技でした。ボランティアの方の助けがあって弱視のお子さんたちは勉強ができているという状況だったんです。これらの現場を見たからには「タイプデザイナーとして何かやらなければ!」とフォント制作の方向性が定まっていきました。

※拡大教科書:弱視の児童生徒のために検定済教科書の文字や図形を拡大して複製し、図書として発行しているもの。

弱視のお子さんも発達障害のお子さんも

ーフォント制作で重視されたところは

高田)2016年に製品としてリリースしたのですが、完成まで8年かかりました。その中で大事にしたのが、使ってもらう皆さんの現場の声を取り入れたこととエビデンスを取ったことです。お子さんの読みやすさだけでなく、教員側の教えやすさも重視しました。具体的には、角をなめらかにしたり、太さの強弱を抑えたり、子どもたちが読みにくさを感じる形状を変えました。また、「山」の二画目は縦と横の部分を一気に書きますが、通常のゴシック体では縦と横の部分が違う画のように見えます。このような違いで混乱するお子さんがいて、教える側の難しさにもつながっていました(上図)。

そして、制作を進める中で発達障害の子にも有効らしいというお話を知りました。特別支援学校の先生や当事者の子どもたちに聞くと、視覚過敏ではらいやはねがとがった字を見ると、自分に刺さるようで怖かったり、筆のアクセントや明朝体の横線にある三角形のウロコなどが気になったりして読めない子がいました。通常の教科書体や明朝体で勉強すると気分が悪くなったり、集中力が続かなくなったりと、文字の形状が原因で学習にストレスを感じるお子さんがいることが分かったんです。子どもにとってストレスに感じているところをなくしていくことに意識も向けていました。

ただ、新しく書体を作成すると言っても、一書体完成させるためには9300字ほどあります。既存の書体から文字の一部分を修正するという簡単なものではなく、全体の大きさや太さのバランスはいいか、縦書きになっても文字の揺れがないか、漢字・ひらがな・数字・アルファベットどの組み合わせになってもバランスよく見えるかなど、完成するまでに多くの確認項目があり、開発中にヒアリングや検証から修正すべき点があっても、単純に一部を修正すればよいというものではないので、膨大な時間を費やしました。

ー検証の結果から見えてきたことは

高田)中野先生の協力のもと、延べ241人の当事者の高校生やその教員の皆さん、専門家の方々にも協力してもらいました。タブレットや紙での見やすさや、他の教科書と比べてどれが見やすいかなどを検証し、UDデジタル教科書体が最も見やすいという結果をいただきました。

また、大阪医科大学(現大阪医科薬科大学)LDセンターの奥村智人先生にも、この書体に興味をもっていただき、ディスレクシアを含む読みに困難さを抱える子どもたちにも検証してもらいました。すると、一般的な教科書体より読みのスピードが9%改善するという結果が出ました。

良い結果が出て嬉しかったのですが、もちろん読み慣れた一般的な教科書体が読みやすいお子さんもいました。一人一人読みやすい書体は違うので、全ての人にとって読みやすい書体はあり得ないということは、常に心に留めています。誰にでも読めるではなく、より多くの人に読みやすいことを目指しているというのが、正しい方向性だと感じています。いろんな選択肢があって、その人に合った書体を選んでもらえる環境がベストだなと思っています。

読みやすさで社会に貢献できる

ーどんなところで使われていますか

高田)今では小中学校の教科書のほか、辞書、百科事典、紙やデジタルの学習教材、ゲームアプリなどにもご採用いただいています。奈良県生駒市さんは導入にあたって通常学級での検証もしてくださいました。

今夏、日本語を教えている先生から、初めて日本語を学ぶ留学生にとっても手の動きに沿ったフォントなので、とても教えやすいという声をいただきました。筆文化のない留学生には筆おさえなどが強調されていないので、分かりやすいかもしれませんね。どんな人にとって何が分かりやすいポイントなのか、このフォントを通して見える世界が広がっています。

ーフォントを届ける意識が変化。今後は

高田)フォントの役割は変わってきていると思います。今までの、「情報を正確に伝えること」、「書体のもつイメージを伝えること」の他に、「読みやすさを助ける・配慮すること」が書体の役割に加わったと感じています。多数派の読みやすさだけを意識するのではなく、弱視やディスレクシアなど少数派の読みやすさに配慮して、かつ、多数派の読みやすさを損ねないことで、UDフォントは多様な人が情報を得る場面で効果を発揮できるのではと思っています。

SNSでもいろんな方が「UDフォントを使っています!」という発信があったり、自治体では広報誌で紹介していたり、みんなに優しいフォントを活用することが、アピールするポイントになってきている変化にも気づきました。

このフォントを通して、これまで書体開発にあまりフォーカスされてなかった教育分野の人や研究者とのつながりができました。今、どのように文字は認識され、記憶されるのかなどを学びたくて、認知脳科学や発達障害などの勉強をしているところです。これらの学びは、UDフォントの在り方や重要性を正確に伝える上でも役立っています。今後、専門の先生方と協力し、新たなUDフォントを開発していければと考えています。

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